私は現在、無所属の高松市議会議員として活動しています。これまでさまざまな問題に取り組みましたが、なかでも市民感覚の公正な政治を実現するための基本の「き」として議員特権の見直しにはこだわり続けてきました。そして、議員特権の見直しを進めていくためには、議会の中からだけでなく、議会の外からも働きかけること、また、全国の仲間と連携することがとても大切だと感じ、市民オンブズ活動も続けてきました。今回の訴訟は、原告は私個人となっておりますが、市民オンブズ香川の代表として提起したものです。
香川県議会には、第2の議員報酬と言われる政務活動費、第3の報酬と言われる費用弁償、さらに、第4の報酬とも言うべき県外・海外派遣旅費があります。市民オンブズ香川は、議員一人年間80万円の枠がある、この県外・海外派遣旅費についてもその使途を毎年調査しており、平成23年には監査請求も行いました。
そして、平成25年度分より政務活動費の収支報告書にすべての領収書を添付することが義務付けられたため、それらの領収書と毎年公開請求している旅費支出の記録を照合したところ、議員本人が県外あるいは海外にいるはずの日程の会合の領収書が多数あることがわかりました。
また、意見交換会や県政報告と称して、1日に十数か所の地元の自治会の総会をハシゴしたり、秋祭りの際に太鼓台や獅子などの地元の団体に支出したり、カラオケなどの趣味の会に対して支出したりしていることも明らかになったのです。県政に関する講演と称して、政務活動費を支出している議員もいますが、講演であるなら、講演者は講演料を受け取ることはあっても、自らお金を払って講演をするというのは明らかに不自然です。
こうした形で地元にお金をばらまくことは公職選挙法違反とされているにもかかわらず、多くの場合、自分で準備した領収書を持参して、堂々と政務活動費という公金を支出していることに、私はあきれてしまいました。このような形で政務活動費を支出することが許されるなら、この公職選挙法の規定は全くの骨抜きになってしまいます。
ちなみに、会費制でない会合への支出は公職選挙法で禁止された寄付行為に該当するとして、政務活動費マニュアルで禁止している議会もあります。また、マニュアルに明記していない議会についても、このような支出が公職選挙法違反になることは、あまりに当然のことなのであえて記載していない議会も多いのではないかと思います。いずれにしても香川県議会のこのような政務活動費の支出のあり方は全国的に見てもきわめて特異なものです。
香川県議会では多くの選挙区で無投票になったり、選挙が行われても現職が「指定席」を占める無風選挙区になったりしている事実がありますが、その原因の一つに、現職議員がこうして日常的に政務調査費または政務活動費を使って選挙運動を行っている、ということがあるのではないかと思われます。その証拠に、年間133万円を意見交換会費として支出していたある議員は報道機関の取材に対して「意見交換は議員にとって一番大事な仕事。支払わなければ呼ばれなくなり、政治生命がおわってしまう」と話しています。
ところで、高知県議会では平成26年度分から政務活動費の出納簿やすべての領収書類がインターネット公開されていますが、香川県議会のような意見交換会への支出は全くされていません。また、愛媛県議会、徳島県議会についても確認したところ、このような支出は全くないことがわかりました。四国の4県で、例えば同じ自民党県議会議員の日頃の活動スタイルが大きく異なるということは考えにくいのですが、さきほどの議員のことばが正しければ、意見交換会費を政務活動費から支出しない、他の3県の議員たちの政治生命は終わってしまっていることになります。
さらに、高知県議会では会派への交付分についても出納簿やすべての領収書がインターネット公開されています。
香川県議会では、自民党議員会と社会民主党・県民連合の会派所属議員が、会派共同政務活動費等という形で政務活動費を支出していますが、それらの合計額約1800万円の使途は公開されず、金額として多額にも拘わらず全くのブラックボックスとなっています。この点に関しては、本件に関する住民監査請求を棄却とした県監査委員も、会派に政務活動費が交付される場合には、収支報告書等の提出が求められることとの均衡に配慮するよう議会に要望しています。
北海道議会については、会派に交付された政務調査費が政党支部に流れていたとして、昨年、札幌地裁が約3800万円の返還を命じる判決を出していますが、香川県議会においても、そのような違法な支出が行われている可能性があります。会派共同政務活動費の使途が明らかにされて、そのような違法支出がないことが証明されない限り、現状の会派共同政務活動費の支出は違法と言わざるを得ません。こうした問題点は、平成25年度に突然登場した議員連盟や議員研究会の会費の問題も同様です。これらは、全領収書添付の義務付けという政務活動費の透明化をめざす流れに逆行する大きなブラックボックスとなっています。
また、香川県議会は、交付額以上の支出を届け出て、たとえ返還命令が出ても返還を免れられる裏ワザを多用していることでも、全国の議会の中で群を抜いています。平成25年度の超過総額は、神奈川県、大阪府、北海道に次いで4番目の1,145万円でしたが、これらトップの3議会は議員定数が香川県議会の倍以上とはるかに多いため、1人当たりの平均超過額でみると、香川がダントツの全国第1位となっています。
高知県議会では、議員1人あたりの交付額が月額28万円と香川県議会よりも少ないにもかかわらず、支出超過するどころか、それらを使い切らずに返還する議員が多く、交付総額に対する支出総額の割合は平成25年度が88.6%、平成26年度は83.7%となっています。26年度になってさらに返還額が増加したのは、26年度から領収書や出納簿がインターネット公開されるようになり、県民のチェックの目にさらされるようになったからではないか、と言われています。
議員の重要な仕事の一つは、税金の使い方を厳しくチェックすることですが、議員自身が自分たちの使っている税金の重みに鈍感でいてはその役目は果たせません。議会で行政改革や財政改革を声高に議論しながら、自らの政務活動費の使い方がこのような状態では全く説得力を持ちません。おそらく知事部局の皆さんもこうした議員たちの身勝手さを苦々しく思っておられるのでしょうが、議員特権という聖域に手を突っ込んで議員たちにへそを曲げられては困るという意識もあって、このような状況が連綿と続いてきたのではないでしょうか?
私は、香川県議会を傍聴した際に、議論が全く成り立っていないこと、また、議員が県民の声をきちんと聴こうとせず、あまりに勉強不足だということに、ショックを受けました。県民との意見交換は確かに大切ですが、自治会の総会や趣味の会で挨拶することで本当の意見交換ができるとは思えません。金一封を包まなくても、県民生活のさまざまな現場に出かけて行って動くことで県民の声をしっかり聴くことはできるはずです。
地方自治体は、今、さまざまな課題を抱えていますが、それらの課題を解決するためには、議員たちがしっかりと勉強し、議会できちんと議論しなければなりません。政務活動費はそのためにこそ使われるべきです。
今、政治と市民との距離があまりに大きくかい離し、市民の声が政治の場に届かないことに多くの人たちが深刻な危機感を持っています。これは国政の問題だけではありません。身近なはずの地方議会でも、議員たちの意識が市民感覚から大きくずれていることを痛感します。このずれはいったいどこから始まったのでしょうか?政務活動費の本質を見失った支出が許されてきたことをはじめとする、数々の議員特権が議員たちの感覚を麻痺させてしまっているのではないかと思えてなりません。
本件訴訟は、全国でも極めて特異な香川県議会の政務活動費のあり方を問うものですが、それだけにとどまらず、そもそも県議会議員の仕事とは何なのか、政務活動費はそのためにどのように使われるべきなのか、ということをも司法の場で問い直す、香川で初めての機会です。
住民監査請求の場で、この訴えをしっかりと受け止めていただきたかったのですが、残念ながら香川県の監査制度は現状追認に終始して、その問題点を問い直すという機能を果たしていませんでした。裁判官におかれては、本件訴訟のこうした大きな意義を踏まえて公正なご判断を下していただけますよう心からお願い申し上げまして、私の意見陳述を終わります。